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本学への寄付

膵臓部分切除術後の糖尿病発症に関与する因子の解明 ~腸内環境と膵臓内分泌細胞の可塑性の重要性~

 

 糖尿病は、膵臓のβ細胞に由来するインスリンの不足や作用低下による慢性的な高血糖に特徴付けられる症候群であり、日本では糖尿病が強く疑われる者あるいは糖尿病の可能性が否定できない者が約2000万人いると推計されています。一方、膵臓部分切除術は、膵癌を含む腫瘍病変に対して施行されますが、腫瘍の発生部位により、手術術式は膵頭十二指腸切除術(PD)と膵体尾部切除術(DP)に大別されます。
 大学院医学系研究科(医学専攻)病態制御内科学講座の谷澤幸生教授、九州大学大学院医学研究院の小川佳宏教授らの研究グループは、膵臓部分切除術前後の詳細な耐糖能の経時変化の解析により、いずれの術式も膵臓を半分程度切除するにもかかわらず、PDではDPと比較して術後5年間の糖尿病の累積発症率が著しく低い値であることを見出しました。PDでは、近位小腸のバイパス手術により術後6ヶ月の腸内細菌叢の様相が著しく変化し、糞便中の短鎖脂肪酸と小腸のL細胞に由来するインクレチンGLP-1分泌の増加に伴ってインスリン分泌が増加して糖尿病発症に抑制的に作用することが示唆されました。一方、DPでは、術後5年間に約60%が糖尿病を発症しますが、切除膵臓の病理組織学的解析により、細胞の可塑性のマーカーであるALDH1A3の発現増加を伴う膵島の腫大(膵臓?細胞面積の増大)が糖尿病発症に関連することが明らかになりました。
 本研究結果で、術式により膵臓部分切除術後の糖尿病発症が異なることが明らかとなり、膵臓部分切除術後の糖尿病の発症予測とともに、糖尿病発症における腸内環境と膵内分泌細胞の可塑性の病態生理的意義が臨床的に証明されました。本研究成果は、膵臓部分切除術後のみならず通常の2型糖尿病の発症機構の理解にも新しい洞察をもたらすものです。

ポイント

  • 膵臓部分切除術後における耐糖能の詳細な追跡により、膵頭十二指腸切除術(PD)を受けた患者は、膵体尾部切除術(DP)を受けた患者より術後糖尿病の累積発症率が著しく低いことが明らかになりました。
  • PDを受けた患者では腸内環境の変化が生じ、糞便中の腸内細菌叢の変化、酪酸を含む短鎖脂肪酸の増加、GLP-1分泌の増加などが術後糖尿病の発症に抑制的に作用することが示唆されました。
  • DPを受けた患者では、細胞の可塑性マーカーであるALDH1A3の発現の増加を伴う膵島の腫大が術後糖尿病の発症に有意に関連していました。
  • 本研究成果は、膵臓部分切除術の術後糖尿病の発症予測に有用であるとともに、通常の2型糖尿病の発症機構の理解に新しい洞察をもたらすものです。

 

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(参考図)

左:膵頭十二指腸切除術(PD)では、近位小腸のバイパス手術により腸内環境が著しく変化し、GLP-1分泌の増加に伴ってインスリン分泌が増加するため、術後糖尿病の発症率は低くなる。

右:膵体尾部切除術(DP)では、切除膵臓において内分泌細胞の可塑性増大を伴う膵島の腫大がある場合、インスリン分泌が低下して術後糖尿病の発症率が高くなる。

 

論文情報

  • 掲載誌:Diabetes Care
  • タイトル:Importance of Intestinal Environment and Cellular Plasticity of Islets in the Development of Postpancreatectomy Diabetes
  • 著者名:Tatsuya Fukuda, Ryotaro Bouchi, Takato Takeuchi, Kikuko Amo-Shiinoki, Atsushiudo, Shinji Tanaka, Minoru Tanabe, Takumi Akashi, Kazuhiro Hirayama, Toshitaka Odamaki, Miki Igarashi, Ikuo Kimura, Katsuya Tanabe,?Yukio Tanizawa, Tetsuya Yamada, and Yoshihiro Ogawa
  • DOI:10.2337/dc20-0864
  • 掲載日時:2021年2月24日(水)オンライン掲載
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