多光子顕微鏡技術を利用し結晶の非破壊な3次元観察を実現 ―弾性結晶の機械的操作で内部発光が起こることを発見―
分子結晶は、電気伝導性、磁性、光物性など多彩な機能を持つ材料で次世代のフォトニクス?エレクトロニクスを実現するキーマテリアルです。この分子結晶の3次元的な内部情報を取得することは、マテリアルの性質を理解する上で重要ですが、そのような情報を取得し結晶内部の状態や機能を明らかにすることは今までできていませんでした。老虎机平台_老虎机游戏-欧洲杯投注网站推荐大学院創成科学研究科の鈴木康孝准教授?川俣純教授、東北大学多元物質科学研究所の芥川智行教授、高知工科大学理工学群の林正太郎准教授らの研究グループは、発光する弾性結晶を対象に多光子顕微鏡を用いて、世界で初めて分子結晶の内部情報の取得に成功しました。このことにより、結晶表面と内部では明確に性質が異なり、発光性結晶は表面で強く光ることが明らかになりました。また、結晶を機械変形させると内部にストレスがかかり、発光を誘起するという事実を発見しました。この結果は、多光子顕微鏡が固体材料、分子結晶を元にしたデバイスの新しい評価手法となることを明示しています。この成果は、2023年8月9日に学術誌Langmuirに掲載されています。
発表のポイント
- 固体の3次元的な蛍光顕微鏡像を取得できた。
- 結晶の表面と内部の性質が違うことを実験的に明らかにできた。
- 分子結晶の新しい評価方法を見出した。
詳細な説明
“結晶は不均一である”これは、事実であるが、これまであまり注目されていなかった。それは、結晶の不均一さを実験的に詳細に解析する手法が限られていたためである。均一な粉末状のサンプルに対して、吸収や蛍光スペクトルなどの分光学的な性質に基づいて結晶の表面や内部の違いが推定されてきた。多光子顕微鏡は、非線形光学現象の一つである多光子吸収現象(物質が光子を同時に複数個吸収する現象で強いレーザー光を用いると生じる)を利用した顕微鏡技術の一つであり、物体を3次元的に非破壊に観察できる特徴を持つ。この技術は、最先端の研究では、生物の細胞や組織を観察することに使われている。我々の研究グループは、本研究で、この技術を分子結晶材料に応用した。
扱う分子結晶としては、非常に珍しい弾性変形が可能な1,4-bis(4-methylthien-2-yl)-2,3,5,6-tetrafluorobenzene(図1)を用いた。写真で示すように分子結晶にも関わらず、力学的な力で曲げることが可能で力学的な力の有無によって可逆的に形態が変化する。写真では、結晶が一様に光っているように見える。一方、この結晶の多光子顕微鏡測定を行うと全く違う像が見えてきた。結晶の多光子顕微鏡像を図2に示す。図2は、顕微鏡像であるため、図1の写真とスケールが大きく違うことに注意してほしい。写真の結晶のごく一部分を観察した像である。図2のa及びbは、観察する向きを変化させて観察した多光子顕微鏡像である。この観察結果から、強い発光が見られているのは、結晶の表面の部分だけであることが分かった。すなわち、写真で見えている一様な発光は、結晶の表面から大部分が発生していることが分かった。この結果は、他の発光性結晶も、この結晶と同様に結晶の不均一さが発光の重要な役割を担っていることがあるという重要な科学的知見を示している。また、図2のcは、曲げた際の多光子顕微鏡像を示している。この顕微鏡像から結晶を曲げると、結晶が伸びる箇所で発光が強く生じることが分かった。写真では、一様に見えた発光が、多光子顕微鏡を通してみると、結晶が伸びている箇所で強く発光していることを世界で初めて捉えることが出来た。この実験事実は、全ての他の結晶性材料においても、結晶中の不均一な変化により全体の性質が変化しているように見える可能性を示唆している。今後、多光子顕微鏡技術を通して、固体材料、分子デバイスの評価が進んでいき、これまで未解明であった機能が明らかになっていくことが期待できる。
図1 用いた分子の構造と曲げの有無の写真
図2 結晶の多光子顕微鏡像(a、bは、観察する向きを変えて測定した結果、cは結晶を曲げた際の顕微鏡像である。
i:結晶の模式図、ii:三次元像、iii:結晶表面の像、iv:結晶内部の像、v:結晶の底面の像)
論文情報
- タイトル:Noninvasive Three-dimensional Assessment of Single Molecular Crystals Using Multiphoton Microscopic Observation and Their Deformation-induced Emission Characteristics
- 著者:Yasutaka Suzuki, Satoshi Koga, Kana Kitaura, Jun Kawamata, Keigo Yano, Norihisa Hoshino, Tomoyuki Akutagawa, Shotaro Hayashi
- 掲載誌:Langmuir
- 掲載日時:2023年8月9日
- DOI:10.1021/acs.langmuir.3c01030